下記は、「Designer's Report」の日本語訳です。(国際事務局)
---------------------------
設計者からの報告-New South Walesテーザー協会総会において
写し:Austraria、UK、Japan、North Americaの各地域テーザー協会
会長、理事各位、テーザーセーラー各位
今年の総会は、Hal Myerが次の画期的な質問を投げかけてからちょうど50年目の節目にあたります。「そう、だから君の作ったヤツみたいなフネを作ろうじゃないか、ただしちょっとばかり大きいヤツを」
世界中に広がったテーザークラスの類まれな強さと団結力を見るにつけ、そして、再設計されたこのヨットがふた回り目の生産ラインに乗って今また広く普及している事実を思うにつけ、ヨットクラスとして、私たちは成功していることが分かります。
さて、今日私がお話する目的ですが、次の二つの問題点について、上手に解決していく方法をお示しすることです。この二つの問題点は、これまでテーザー所有者から問題提起されたり、今まさに協会理事を悩ませていることなんですが。
(1) クルーウェイトルール
これは、この前の和歌山ワールドでも動きのあった話題です。NS14と49erのクラスでクルーウェイト ルールが最近撤廃されたとの報告もありました。
(2) 異なる艤装をたくさん使うという最近の風潮を食い止め、その代わりに、
ワンデザインクラスという原則に沿ってもっと均一化を図る方向に持って行こうということ。
この二つの問題の背景として、現在テーザーと呼ばれているこのヨットについて、これまでの50年間でどんな決まりが作られてきたかについてご紹介することにしましょう。
1.始まりは1960年でした。冒頭に紹介したHalの雄弁な言葉を受けて、数週間かけて、まず私たちが本当に作りたいフネはなんなのかを正確に決めて、そのフネの目指すものをはっきりと分かりやすく表現することとしたのです。私は、それをこう表現したんです。「一人の男と一人の女が乗りこなせるなかで、最高に楽しく、そして、最高の性能を誇る。」
その当時シドニーでは、「男は大型ヨットに乗って、子供はディンギーに乗るが、女はセーリングなんかしない」といわれて社会で許容される役割が決まっていました。そんな時代にあって、成人女性に向けて、その身体能力を考慮したフネを新たに設計しようなんていうのは、画期的なことでした。
そして私たちは、300lbs(ポンド)のクルー重量を想定した試作品を設計製作し、これが気に入ってしまって、ちょうど国際14クラスにあるようなルールも作りました。こうして、NS14(Northbridge Sailing Club, Senior’s dinghy class)クラスが広がり始めたのです。
2.続いて、安全に関連してクルールールが生まれました。
1964年ごろ、Geoff Pogsonがやってきて、こう言いました。「君たちのやっていることはおおいに応援しているが、でも家内はセーリングが好きではないんだ。もし11歳の息子と乗ったら、歓迎してくれるかい?」
歓迎するかどうか、などという質問はいままで考えたこともありませんでした。ただ、その数週間前に、元モス乗りが、4歳の息子さんをHeronというフネに縛り付けて、船底の水溜りで遊ぶためのオモチャのフネをあてがって、ほかのフネよりも半分ぐらいのクルーウェイトでHeronの国内選手権を勝ってしまったということがあったのです。このことは、安全とスポーツマンシップの面から、強い反感を買ってしまっていました。
Geoffも一緒になってたくさんの人と議論を重ねた結果、Geoffの質問を端緒としてルールに実用的な条項を追加することとしました。すなわち、「私たちと一緒にセーリングするのはどなたでも歓迎します。ただし、乗組員はすべて8歳以上であり、泳ぐことができ、かつ、クルーウェイトが250lbs以上である場合に限ります。」
Geoffとその友人のRobertはその後も数年、私たちと一緒にセーリングを楽しみました。私たちも彼らとの仲間づきあいを楽しんだし、彼らは決して彼らの実力以上に勝利をおさめることもなかったですが、人生はこうして楽しく過ぎ去っていったのでした。
このように安全面に着目してできたNS14のウェイトルールが撤廃されたことは、テーザーの場合にはあてはまりません。
3. 三つ目は、クラスの目的を復活させるような大きな変化でした。
1969年の画期的な設計となった「Medium Dribby」は、Mark Bethwaite設計の鋭いバウ角度を持つ革新的なハルと、私が考え出したウィングマストを持つ調整可能な艤装が融合したものでしたが、これが、クルー重量に大きく影響を受けることが分かったのです。続く2年間のあいだに、優秀なセーラーが、成人女性のクルーの代わりに軽量の子供や青年をクルーとし始めました。2年目には、クラスがクルーとして想定していた女性陣がごっそりと抜け始めてしまったのです。
これは、クラスが目的としていたこととは逆の事態でしたが、それがあまりにも急に起こってしまったために、私たちが気づいたときには、説得して動きを止めるにはもはや手遅れでした。そこで、1972年になって、クラスの長老が、技術的な手立てはなにかないかと私に尋ねてきました。
私は三種類の案で答えました。
・新しいクラスを作る。(このクラスをNova(New Star)と呼ぶこととしました。)
・セールエリアを、100平方フィートから、123平方フィートに変更。この理由としては、同じ風を受けた場合、1970年の調整可能でよりセールをフラットにできる艤装での123平方フィートのセールは、1960年の調整不可能な艤装での100平方フィートのセールと同じだけの揚力を生み出すから。
・ルールの改正。すなわち、「トータルクルーウェイトが300lbsより軽い場合、その差の重量のバラストを搭載しなければならない。」
これらの案は、良い結果をもたらしました。300lbsのクルー重量が乗る新しいクラスのフネは、250lbsのNS14よりも速くなったのです。そして、改正新ルールは、このクラスに成人女性の居場所を作ることとなったので、女性はNovaクラスに戻ってきたのです。こうして、新たに生まれたNovaクラスは飛躍的に広がっていきました。
1975年、Novaはテーザーになりました。そして、当初の目的「一人の男と一人の女が乗りこなせるなかで、最高に楽しく、そして、最高の性能を誇る」を世界中の人々が楽しむことができるようになったのです。
4.和歌山において、49erクラスが性能平準化ルールを撤廃するよう指導されているという話題が出たので、少しここで触れておきましょう。私の書いた「Higher Performance Sailing」の172ページから175ページに、技術的な説明があります。
要するに、あるコーチが選手に、計量時に10%体重が落ちるように減量し、そして合格した後レース中に元の体重と筋力が戻るよう大食いするよう指導したのです。IOCとISAFの医学チームは、この行為を健康上のリスクがあるものとみなし、クラスに対し、ルールを撤廃するよう指導したのです。
49erクラスが、このように医学的見地から性能平準化ルールを廃止するよう指導されていることは、テーザークラスの現在の状況にはあてはまりません。
では、次に、ワンデザイン原則について検討してみましょう。
ここで目指すものは、「レースにおける本当の勝ち負けというものは、ボートの差ではなく、セーラーの実力によって競われるものでなければならない。」ということです。
これを達成するためには、明らかに、すべてのフネが購入時に同一のものでなければならないし、時間がたっても、なにも、(強調するため繰り返しますが)、なにも、変わるべきではありません。つまり、10年の歳月を隔てて購入された2艇があったとしてもすべての点で同一でなくてはなりません。これは理想状況というべきものではありますが、これによって、理論的にはクラスは長続きすることになります。
このことは理論的にはそのとおりなのですが、50年以上にわたる経験によれば、これを実現するためにはどうしたらよいか、ということについて私たちはいまだ分かっていないと言っていいでしょう。
ここで、代表的な長寿命クラスである3つの艇種を検討してみましょう。すなわち、1904年Star、1969年Laser,1975年テーザーです。すると、次のことが分かりました。
・ Starクラスの場合、ほぼ25年おきに、4回の設計の変更を行っています。そのいずれもが重量、強度、艇速に大きな変更を加えています。最初は、木の板で重々しく作られていましたが、次には軽量防水合板が用いられ、さらに470やLaserのように「ファイバーグラス」製となって、現在ではサンドイッチ構造の発泡材から作られています。
この経緯は、「なにも変化しない」ワンデザインの理想からはほど遠いのですが、逆に、Starクラスが100年以上も続いている理由となっています。
・ Laserは、470や420と同じように、セーリングするやいなや変わってしまいます。軟化しやすく、使っていくにつれ艇速が落ちていきます。だから、ワンデザイン原則の輝かしい代表例のように称賛されているものの、決してワンデザインであったためしはありません。なぜなら、艇速が同じだといえるのは2つの新品のフネを比べた場合のみだからです。Laserはレースするにはいいフネですが、それも毎年新艇を買うセーラーのあいだでのみ通用するのです。
この状況もまた、「なにも変化しない」ワンデザインの理想とは言えませんが、クラスとして長生きすることには成功しているのです。
・ テーザークラスは、おそらく、他のどのクラスのフネと比べても、なにも変化しないという理想に近づいたフネです。強固で堅固なハルのおかげで艇速が遅くなることなく、もともと、30年以上にもわたって、公平なレースを提供してきました。
このことは、フネの持ち主に、本当に「なにも変化しない」ワンデザインを提供してきましたが、逆に、ワンデザインから離れることにも繋がったのです。というのも、ワンデザインとして初期に設計されたフネがだんだん選ばれなくなってしまっていったからです。25年が経過して、初期の1975年に設計されたフネは時代遅れだとセーラーたちにみなされて、欲しがる人はほとんどいなくなってしまったのです。
これに対し、メルボルンにて組織された「将来の方向性」委員会が将来構想を出し、初期設計と基本的に同一のダイナミックスを持つフネを再設計することでクラスの発展と強み を再び推し進めることができたのです。
過去50年かけて私たちが学んだことは、ワンデザインの原則というものは、同等のフネ同士のレースを楽しむセーラーにとっては、とても好都合なものであることです。しかし、現実には、いくつもの理由から、大きく妥協することなしにはなりたたない考え方になっているようです。
テーザークラスの場合には、入念な計画によって、フネを再設計することができました。具体的には、セールの材質や形、ハリヤード配置の変更、ステースライドやプルバックの変更、そして、ラダーストックやラダーの変更によるものです。結果的には、詳細にわたるまっとうな実験だったのです。このようにして、とうとう、元のフネとはまったく同一とは見えないフネにたどりつきました。
広い眼でみれば、テーザーを再設計していく過程を経ることによって成功を収めることができたことに疑問の余地はありません。結果、テーザークラスは再び力強く成長しています。
今こそ、この未解決となっている艤装の乱れを終わりにすべきであり、そのためには、世界中から最良の艤装を選び出し、取り込んでいくべきです。そして、その目的を達成するために、体系的にルールを厳しくしていくべきです。
結論を言いますと、
提案されたクルーウェイトルールの変更について;
安全面に着目してできたNS14のクルーウェイトルールは、現在のテーザーの状況にはあてはまりません。
49erの厳密な性能平準化システムを医学的見地から撤廃したことは、現在のテーザーの状況にはあてはまりません。
私はつねづね、よりよい解決があればそうすることがよいと考えています。これはちょっと注目してほしいんですが、前回のワールドカウンシルの会議では、この私が、クルーウェイトルールを、軽量クルーにとって公平になるように変更する方法を示してしているほどなのです。
だから私は、このルールを改正したいと思うセーラーに説明してほしいのです。改正をしたく思う理由を、他のテーザーセーラーと私に向かって。
現在のルールでなにが問題なのか?
その代わりに何をしたいのか? そうするためにどのようにしたいのか?
そうすることが、どうしてより良い方向に向かうと考えるのか?
そして
艤装の統一を図ること;
世界中のすべてのテーザーセーラーにお願いしたいのです。皆さんの所属する地域団体の事務局やメジャラーを支え、協力して、世界中で市販されているなかから最良の艤装品を選び出してほしいのです。そして、長い期間にわたって世界中でその同じ艤装品を使うためのルール作りを支えてほしいのです。そうすることによって、より良く、より均一なフネを提供することができ、よりいっそう楽しむことができるのです。
Frank Bethwaite
設計者 2010年4月4日
「だから私は、このルールを改正したいと思うセーラーに説明してほしいのです。改正をしたく思う理由を、他のテーザーセーラーと私に向かって。現在のルールでなにが問題なのか?その代わりに何をしたいのか?そうするためにどのようにしたいのか?そうすることが、どうしてより良い方向に向かうと考えるのか?」
返信削除●フランク自身が、In this case I regard myself as sinner-in-chief.と宣言した上で、このルールにはまだ問題があることを説明し、130kg and three quarter compensationという提案をしたことがあります。
●軽量なクルーを歓迎しないのであれば、軽量なクルーに扱えないハイパワーなリグを持つボートをデザインすればよかっただけのはずです。そうではなくて、テーザーは、フランクの手によって、”most fun and highest performance within the strength of a man and a woman”となるように、素晴らしいアイディアでデザインされたはずのボートです。ルールがデザインしたわけではありません。
●醜悪なバラストを購入するコストを、これらを取り付ける労力を、そして、多大なコストを払って購入した新しい新艇にさえこれらを積まなくてはならない屈辱的な思いをいつまで軽量であるというだけで一部の人たちに背負わせるのか、それがフランクが解決しようとした問題によって生じた新たな問題でした。
●このルールがなくなると、食後のワインを止めなくてはならないと表現した人がいました。そのワインの陰には、鉛のインゴットをいくつも持って海外旅行に行くことを強いられている人たちにいることを知るべきです。ジョナサンに代表される多くのトップセーラーは、ワインを止めなくても練習をもっと積むことによって、楽しみを維持できることを知っています。
●フランクは、自分がデザインしたそのままのテーザーを全ての人達が享受できるようにすることが、フランクの人生でやり残している仕事であることを知るべきです。
●ルールC6は、約40年前にオーストラリアのナショナルクラスであるNS14クラスで起こった出来事をいつまでも引き摺っている負の遺産であり、テーザーの足枷に他なりません。そして、このルールがないと人離れが起こるという迷信は、アリステアとのやりとりからフランクによるものだと確信できます。
●今でも、ルールC6がなくなったら、テーザーセーラーは、勝つために自分の大切なパートナーを排除して、軽い子供を連れてくるなどというテーザーのハーモニーを破壊する行為をすると思うのか?もっと紳士的な楽しみをマスターしているのではないだろうか?
アリステアのような立場の人間が立ち上がってくれたことで、日本が特にこの問題に固執しているような印象の中での討論ではなくなりつつあります。しかしながら、アリステアの討論も従前に繰り返されてきた公平論になっているような気がします。これだと、フランクの理論と衝突していき、着地点がないか、ルールの数値が変わるだけのような結末になりそうです。どんなに醜悪な12kgのバラストを積んでいるのか、写真を送りつけて、理系的な理論ではない、論理を分かってもらうのがいいのかなと思いました。